「咳」と聞くと、多くの方が肺や気管などの呼吸器の病気を思い浮かべるかもしれませんが、犬の場合、心臓病が原因で咳が現れることも少なくありません。
心臓病の場合、咳以外にもさまざまな症状が見られるため、ご家庭で愛犬の様子をよく観察し、異常に気づいた際には早めに動物病院を受診することが非常に重要です。
今回は、愛犬が咳をしているときに考えられる心臓病や、ご家庭でチェックすべきポイントについて解説します。
犬の心臓病による咳の特徴
心臓病になると咳が出る理由として、大きくなった心臓が気管支を圧迫することや、気管や肺にある咳受容体(刺激を感知して、咳を出せと脳に命令するもの)が刺激されることが考えられます。
心臓病による咳は長く続くことが多く、特に初期には乾いた咳がよく見られます。この咳は、昼間よりも夜間、休んでいるときよりも運動や興奮しているときに発生しやすいのが特徴です。
しかし、病気が進行すると湿った咳に変わることもあるため、他の病気との区別が必要です。
心臓病による咳以外の初期症状
心臓病が原因で咳が出る場合、他にも以下のような初期症状が現れることがあります。
・運動するとすぐ疲れる
・運動を嫌がる
・呼吸が荒くなる
・すぐ息切れする
・元気や食欲がなくなる
・その他、わずかな変化
代表的な犬の心臓病と咳との関係
犬に起こる代表的な心臓病として、以下のものが挙げられます。
<僧帽弁閉鎖不全症>
心臓の僧帽弁が正常に閉じなくなり、血液が逆流します。その結果、大きくなった心臓が気管支を圧迫し、乾いた咳を引き起こします。特に夜間や運動後に咳が増えることが多いです。
また、病気が進行すると、肺に水が溜まり湿った咳に変わります。
<拡張型心筋症>
心臓の筋肉が薄くなり、収縮力が弱くなる病気です。これにより血液が心臓に溜まりやすくなり、うっ血性心不全や肺水腫を引き起こし、咳が出るようになります。
初期には運動後や興奮時に咳が出やすく、進行すると安静時にも咳が出ます。
<フィラリア症>
蚊が媒介する寄生虫が心臓や肺動脈に寄生し、血流が悪くなることで咳を引き起こします。初期には乾いた咳が見られますが、進行すると湿った咳や呼吸困難が現れます。
<先天性心疾患>
生まれつきの心臓の異常により、血流が妨げられたり、異常な血液の流れが生じたりすることで咳が現れることがあります。
犬の年齢や品種と心臓病リスクの関係
一般的に、犬は中高齢になると心臓病にかかりやすくなります。
特に、僧帽弁閉鎖不全症は小型犬に多く見られ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやトイ・プードル、チワワなどがリスクの高い犬種として知られています。
一方、拡張型心筋症は大型犬に多く、ドーベルマン、ボクサー、グレート・デーンなどが特に注意が必要です。
先天性の心臓病は、生まれつき心臓に異常を持っている場合に若い頃から発症することがあります。これには、動脈管開存症や心房中隔欠損症などが含まれ、どの犬種でも見られる可能性があります。
フィラリア症は蚊を介して寄生虫が体内に入り、心臓や肺に寄生する病気です。予防薬を適切に投与していない場合、特にフィラリアが多く見られる地域では発症リスクが高くなります。この病気は、予防薬の定期的な投与で防ぐことができるため、飼い主様は愛犬の年齢や品種に関わらず、予防を徹底することが重要です
また、心臓病のリスクは年齢や品種だけでなく、肥満や運動不足、ストレスなどの生活習慣とも関連しています。定期的な健康チェックと適切な管理を行い、早期発見と治療を心がけることで、愛犬の健康を守ることができます。
診断方法
心臓病の診断では、まず聴診器を使って心音に異常がないか確認します。心音に異常が認められることが多いため、聴診は重要な初期診断の手段です。
異常が疑われた場合、次に以下の検査を行い、より詳細な診断を行います。
・レントゲン検査
胸部のレントゲンを撮影し、心臓の大きさや形、肺の状態を確認します。これにより、心臓の肥大や肺うっ血の有無を評価します。
・心臓超音波検査(エコー検査)
超音波を使って心臓の内部を詳しく観察します。心臓の構造や動き、血流の状態をリアルタイムで確認できるため、僧帽弁閉鎖不全症や拡張型心筋症などの詳細な診断に役立ちます。
・血液検査
心臓病に関連する特定のマーカーや、全身の健康状態を評価するために行います。
心臓病が疑われる場合の対応
もし、今回挙げたような症状が認められたら、早めに動物病院を受診しましょう。また、咳が乾いた音から湿った音に変わった場合や、突然気を失うような様子が見られた場合は、心臓病が進行している可能性があるため緊急の対応が必要です。
また、ご家庭では、激しい運動を避けることも大切です。
心臓に負担をかけないよう、お散歩の時間やペースを調整し、無理のない範囲で活動させましょう。また、興奮を避け、できるだけ安静に過ごせる環境を整えることも重要です。
静かな場所でリラックスさせることで、心臓にかかるストレスを最小限に抑えることができます。
早期発見のためのチェックポイント
愛犬の異常に早く気づき、早めに治療を始めることができれば、健康で過ごす時間を延ばすことができます。特に心臓病は運動に関わる変化が現れやすいため、お散歩中の様子に注意を払いましょう。
次のような普段と違う様子が見られた場合、動物病院を受診することをお勧めします。
・お散歩に行きたがらない
・疲れて座り込む
・荒い呼吸が元に戻らない
・咳が続く
特に咳が続く場合には、心臓病が進行している可能性もあるため、早急にご来院ください。
また、こうした症状が見られなくても、心臓にはすでに異常が現れていることがあります。小さな異変も見逃さないためには、定期的な健康診断が欠かせません。健康診断では、心臓超音波検査やレントゲン検査などを用いて、日常生活では気づきにくい異常を発見することができます。
まとめ
心臓病は悪化すると治療が難しくなるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。ご家庭で愛犬の様子に気を配ることはもちろん、定期的な健康診断で心臓の状態をチェックすることが大切です。
日常の観察と定期的な検診を心がけ、愛犬が健康で幸せに過ごせるよう努めましょう。
当院では2023年8月より「獣医学博士・獣医循環器認定医」をチームに迎え、心臓病で苦しむ愛犬や愛猫のための循環器外来を設けております。循環器外来は予約制となりますので、下記のページからご予約の上ご来院ください。
東千葉いこい動物病院の循環器外来について
■当院の心臓病に関連する病気はこちらで解説しています。
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・愛犬の心臓病を早期発見!|初期症状と予防法について
・心臓病治療を始めてみると
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